猫の手も借りたい・・・職場猫

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さまざまな企業が“働き方改革”を推し進めているなか、猫好きにとって夢のような提案が

話題を呼んでいる。その名も「ねこ社員登用のすすめ」。改革の概要は、職場で猫を飼う

だけというものだが、果たしてどのようなメリットがあるのだろうか?

仕事がどうにも忙しいとき、ふと「猫の手も借りたい…」とつぶやいた経験はないだろう

か。実際は“誰でもいいから手を貸してほしい”という意味だが、本当に猫の手を借りる日

がくるかもしれない

先日発売された『仕事で悩んだらねこと働きなさい』(自由国民社)には、ねこを職場

で飼うことで得られる、さまざまなメリットが綴られている。

「ねこ社員は職場にいるだけで、あらゆる面で働き方改革を起こしてくれる存在なんで

す」

そう話すのは、同書の著者・樺木宏氏。出版コンサルタントとして働く樺木氏もまた、

自宅で8匹の保護猫とともに暮らし、ともに働いている1人だ。

「ねこ社員が与えてくれる1つ目のメリットは“ストレスマネジメント”。猫と関わって

いるとき、人間の脳では脳内ホルモンのオキシトシンが分泌されます。オキシトシンは

別名『愛情ホルモン』と呼ばれる物質。この愛情ホルモンこそが、ビジネスパーソンにと

って必要不可欠な存在なんです」

この愛情ホルモン・オキシトシンには、「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾール

を直接抑制し、ストレスを解消する働きが期待できるそう。

「さらに、オキシトシンは怒りや欲望のホルモンを抑えて、心の安定をもたらします。

そのほか、消化機能や自律神経にも作用し、疲労回復を促進したり、学習効果を高めたり

するなどの好影響があるとされているホルモンなのです」

心身のストレスを解放するオキシトシン。多くの日本の企業が頭を抱えている“ストレス

マネジメント”に、一役買ってくれる存在なのだ。しかし、このオキシトシンと猫は、

どのように関係しているのか。

「実は、猫を見て『かわいい』と思うだけで、オキシトシンは分泌されます。より効果を

高めたい場合は、猫をなでてください。ふわふわの猫の毛をなでることで、脳がさらに

刺激されてオキシトシンの分泌を促すとされています」

たしかに、会社に猫がいれば、見ることもなでることもできて一挙両得。オキシトシン

の恩恵を受けることができそうだ。

 

昔に比べ、お互いのプライベートに踏み込む会話を避けるようになった現代では、

社員同士のコミュニケーション不足が深刻化している。ねこ社員の存在は、こうした

企業の問題も解決に導いてしまうのだ。

「猫を会社で飼うことの最大のメリットは、導入のハードルが非常に低いにもかかわら

ず、しっかり効果が期待できる点です。ストレスマネジメントやコミュニケーションの

改善など、それぞれの施策を個別で行うとなれば、莫大な費用がかかります。一方、

猫を飼うのはとても簡単。毎日ごはんをあげて、トイレの掃除をしてあげれば、あとは

自由気ままに過ごしてくれる動物なので、特別なことをする必要がありません」

猫は高い場所が好きなので、ロッカーなどで段差を作ってあげるだけでも、彼らは

自由にオフィスを活用してくれる。特別な設備投資が必要ないのもねこ社員の魅力だ。

もちろん犬社員でも問題ないが、日々の散歩やトイレのしつけのことを考えると、

ハードルが上がってしまう。その点でも、ねこ社員がおすすめなのだとか。

「もちろん、なかには反対意見もあるとは思います。ただ、ねこ社員のメリットは、

猫がキライな人や猫アレルギーの人でも享受することができます。アレルギーの場合は、

空気清浄機の台数を増やすなどの工夫をするだけで、飼育が可能なケースも。実際に会社

で猫を飼いたい場合は、みなさんが納得のいくカタチで実行してくださいね」

猫と働くことで、さまざまな問題が解決することは理解できても、やはり発想が突飛すぎ

るのでは、と感じている読者もいるかもしれない。しかし、視点を欧米に転じればまった

く突飛ではない、と樺木氏は語る。「アメリカでは全企業の約17%で動物と働くことが認

められ、ペット同伴の出勤が可能なケースもあります。こうした企業は近年急増してお

り、世界トップ企業のGoogleやAmazonも名を連ねています。世界的に見ても、動物と

働くことはなんら珍しいことではなくなってきているのです」Googleは、同社の企業文化

になくてはならない存在に犬を挙げ「ドッグカンパニー」と称し、従業員にペットの健康

保険を提供するなど、さまざまなサポートを行っている。また、イギリスのペット保険

会社「MarsPetcare」では、ペットを理由に休みがとれる「ペット休暇」を導入している

という。

「欧米諸国でペットと働くことが受け入れられている理由は、アニマルセラピーが医療行

為として広く信頼されていることが関係しています。アメリカやイギリスは、動物を活用

した医療(動物介在療法)の先進国ですし、ドイツでは90%以上の医療従事者がその効果

を認めている、という調査結果も。欧米において『猫と暮らしなさい』という医師の指示

は、正式な処方なんです」

一方、日本での動物介在療法は保険が効かず医療費が高額になってしまうため、医師側

も積極的に患者に提案することができないという。医療現場で使われなければ、認知度が

上がるはずもなく、アニマルセラピーという言葉だけが独り歩きしているのが日本の現状

なのだとか。

「ストレスを抱えてうつ病に悩むビジネスパーソンはとても多い。メンタルの不調が原因

で退職を余儀なくされるケースもあり、社会問題になっています。企業は社員のストレス

を解消する方法を見い出せていない一方で、彼らを救うチカラを持つ猫たちが、何万頭も

殺処分されている。このミスマッチな現状を解決するのが、ねこ社員の登用なんです。

日本の法人企業の約2.5%がねこを受け入れるだけで、現在行われている年間4万6000匹

もの殺処分がゼロになる計算です。この企業への受け入れの割合は、アメリカ企業の

7分の1程度の水準であり、イギリス企業の水準からみても3分の1以下に過ぎません」

日本では、猫=老人や子どもが飼う動物というイメージが強い。しかし、日々ストレス

と戦うビジネスパーソンにこそ、ねこ社員が必要だと樺木氏は語る。

「“どうせペットでしょ”という、猫のイメージを変えるきっかけになれば、と思い、この

本を執筆しました。本当の意味でよい仕事をしたいならば、猫と働くという選択肢が

あってもいいのではないでしょうか」